添付資料1 TENOHASIの活動と、炊き出しの必要性について

炊き出し存続のための豊島区長宛申し入れ書に添付した説明資料です。
なぜ炊き出しが必要なのかを縷々述べています。長文ですが、ぜひお読みください。

TENOHASI事務局 
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資料1 TENOHASIの活動と、炊き出しの必要性について

1,NPO法人TENOHASIについて

 私たちは、誰もが安心して生活できる社会の実現に寄与することを目的として、豊島区におけるホームレス状態の方を含む生活困窮者への支援活動および調査広報活動を行っている法人です。結成は2003年で、それまで池袋で炊き出しや医療相談を行ってきた団体が団結して任意団体として発足し、2008年に法人格を取得しました。メンバーは、ホームレス問題に関心を持ち、少しでもこの状況を変えたいと願って集まった人々で、全員が無給のボランティアです。中心なスタッフは約30名で、医師・看護師・教員・鍼灸指圧マッサージ師・臨床心理士などの専門職、会社員・学生・主婦(夫)・さらに現役または元路上生活者が対等な立場で運営しています。毎回の炊き出しは、30~50名のボランティアで行っており、メーリングリスト登録者は約250名です。特定の宗教的・政治的団体等との関係はありません。
 TENOHASIの財政規模は年間約120万円で、すべてが個人からの寄付でまかなっています。物品の寄付の寄付にも頼るところが大です。

2,なぜ池袋で炊き出しが必要か

 池袋駅は新宿・渋谷に並ぶ日本有数のターミナル駅で、そこに人・モノ・仕事が集って副都心と呼ばれる大都会を形成しています。職も住まいも失った人が、大都会に行けば何か仕事が見つかるのではないか・そうすれば生活できるのではないかと思って大都会に集まるのは自然なことです。副都心を抱える豊島区は、ドヤ街・山谷を抱える台東区・河川敷に集住地帯がある墨田区・同じく副都心である新宿区と渋谷区になどに次いで路上生活者の多い地域となってきました。これらの地域では、全国各地から次々と集まってくるホームレスの人たちをどうにか助けたい、路上から脱出させたいと思う人たちが、炊き出しを中心とする支援活動を行っています。池袋でも10年以上前に立教大学の教員と学生・池袋や新宿の路上生活当事者などが集まって南池袋公園での炊き出しが始まり、やがて炊き出しに集まった人たちを対象に医療相談や生活相談などが始まり、現在のNPO法人TENOHASIになりました。池袋で炊き出しを行っている団体は他にもありますが、路上から脱出するための総合的なサポートを行っているのは私たちだけです。その炊き出しがなくなるということは、豊島区に起居する路上生活者が、路上から脱出する施策にアクセスする機会を大幅に減らし、さらに多くの路上生活者が池袋に滞留し、さらに多くの方が池袋の路上で死を迎えることにつながるでしょう。
 炊き出しがあるから路上生活者が池袋に集まるのだという意見も聞きました。しかし、私たちの炊き出しは月に2回(他におにぎり配布が週1回)にすぎず、頼るにはにはあまりに少ない回数です。実際、初めて池袋に来た路上生活者に聞き取りしても、ほとんどの方は炊き出しがあることを知らず、仕事や寝る場所を求めて池袋に来たと語っています。

3,生活困窮者・路上生活者の増加

 炊き出しに並ぶ人が減少し、必要性がなくなったのであれば私たちは喜んで炊き出しを中止します。しかし事態は逆に進行しています。
 毎月第2/第4土曜日に行っているTENOHASIの炊き出しに並ばれた方の2005年から2009年の半期ごとの平均数(2009年は上四半期)を以下にお示しします。

2005年度 4月~9月平均 218人
  10月~3月平均 247人
2006年度 4月~9月平均 219人
  10月~3月平均 209人
2007年度 4月~9月平均 196人
  10月~3月平均 221人
2008年度 4月~9月平均 266人
 10月~3月平均 334人
2009年  4月~6月平均 362人

一見しておわかりの通り、2007年度までは200人前後で推移していました。しかし2008年度前半から増加し、とくに後半からは未曾有の増加ぶりを示しています。この増え方は、現在進行している雇用危機のために収入の道を閉ざされ、炊き出しに並ばざるを得なくなった方々が激増していることを示しています。炊き出しの現場では、従来ならばほとんど見ることができなかった20~40代の若い方が増え、聞き取りをしてみると「派遣切りにあって寮を出ざるを得なくなり、仕事を求めてやってきた」「建設・建築業で働いてきたが、仕事がほとんどなくなった」などおっしゃる方が多数いらっしゃいました。
東京都の路上生活者概数調査では、豊島区域の路上生活者は2008年1月の166人に対して2009年の1月には94人に減少しています。しかしこれは昼間の目視調査によるもので、昼間、テントや段ボールハウス等で生活していたり路上で寝ていたりして路上生活者と見られた人の数でしかありません。確かにテント等で生活している人は一昨年度豊島区でも実施された地域移行支援事業等でアパートに入居したり、首都高速5号線の高架下にあった集住地帯をフェンスで囲うなどしたために減少しました。しかしこれは路上生活者全体の減少を意味していません。今、路上生活者の多くは、昼は町中を歩き、夜だけ段ボール等を敷いて路上に寝るという生活をしています。これらの方は東京都の概数調査ではカウントされません。
 更に言えば、派遣切りなどで職を失った方は、ネットカフェやファストフード店など深夜営業の店で夜を過ごして、路上で寝ることがないという方が大部分です。炊き出しに並ぶ方の中で増加したのはこのようなタイプの方が大部分だと思われます。

4 医療相談と特別対策・路上死

 南池袋公園の炊き出しの際に行っている医療相談では、心身の不調を抱える方を対象に、ボランティアで参加している医師・看護師が無料で相談に応じています。相談に訪れる方は毎回20~50名で、血圧を計ったり、外傷や皮膚疾患などの方が応急処置を受けたり、風邪や胃炎などの方が市販薬をもらったり、通院・入院が必要な方には医師が紹介状を書くなどの活動を行っています。医師には精神科医・歯科医もいて、身体以外の疾患も含めた総合的なサポートを行っています。
 昨年度、TENOHASIの医療相談を訪れた方は延べ825名、そのうち紹介状を発行した方は17名で、その多くが医療につながって路上から脱しています。もしこの活動がなくこれらの方が放置されればどうなるでしょ
うか。今よりも多くの方が豊島区内で路上死を迎えるでしょう。また、劣悪な生活環境から結核やインフルエンザなど伝染性の病を発症する方が増え、路上生活者だけでなく多くの区民が感染のリスクにさらされることになるでしょう。
 豊島区でも、年2回「路上生活者特別対策」を行って、路上生活者の疾患、とりわけ結核の蔓延を防ぐ活動をされており、私たちも広報や実施の場面で協力しています。私たちの毎回の活動は、豊島区の事業を補完するものになっています。
 このように、行政と民間が協力して路上生活者の健康を守り、疾患の蔓延を防ぎ、豊島区の保健衛生の向上に一定の役割を果たしている状況をご理解いただき、ぜひとも炊き出しの継続を認めてくださいますようお願いいたします。

5.生活相談と福祉行動

 路上生活者が路上から脱するサポートとして最も重要な活動が生活相談と福祉行動です。TENOHASIの炊き出しでは、必ず医療相談とならんで生活相談のブースを設けており、両者は緊密に連携しながら、路上から脱するサポートをしています。この活動は、「ホームレスの自立支援方策について」(平成12年3月8日 厚生労働省ホームレスの自立支援方策に関する研究会)の「3 ホームレス自立支援事業の効果的な進め方」にうたわれている
「○ 民間支援団体等との連携・協力による福祉事務所等の窓口への誘導
 ○ 街頭相談における地域のNPOや民間支援団体等との連携・協力」
に沿ったものであると考えます。
 ホームレス状態から脱するために最も重要な施策である生活保護制度と路上生活者自立支援事業は、自ら利用を申し込んだ人が対象です。しかし、路上生活者の多くは、制度があることを知らなかったり、知っていても自分は利用できないとあきらめてしまったりという齟齬がしばしば生じています。私たちの生活相談では、その方の状況や希望をじっくり聞いて、どの施策をどのように利用すれば路上から脱して自立できるかを考え提案します。そして必要ならば、病院や役所に同行してサポートをし、その後も必要に応じて訪問したり相談に乗ったりする福祉行動を行っています。
 利用する施策のほとんどは前述の生活保護制度か路上生活者自立支援事業ですが、どちらも利用できればすぐ自立できるわけではありません。一般社会で生活が破綻して路上生活に陥った方の多くは、再び一般社会に復帰することに大きな不安を抱えており、その不安から再び生活を破綻させる方もいらっしゃいます。精神的・身体的な病や障害を抱える方の中には施設や病院を何度も飛び出してしまう方もいらっしゃいます。そのような方とも粘り強く関わって次第に信頼関係を築き、社会の中で安心して生活ができるようにすることが福祉行動の目的です。TENOHASIの福祉行動によって人間らしい生活を取り戻した実例は、池袋駅構内で2年近くにわたって立っていた統合失調症の女性や、軽度の知的障害のために暴力団が経営する土建会社で酷使虐待されてきた青年など、多数あげることができます。
 生活相談と福祉行動に関わるスタッフは、経験豊富なボランティアです。時には他区、他の都道府県まで同行してサポートすることもしばしばありますが、実費をTENOHASIが負担するだけで、スタッフは賃金を受け取っていません。サポートされる本人には、TENOHASIが食事・交通費などを負担することはあっても、本人から料金などをいただくことは一切ありません。
 たくさんの方のサポートができたのも、炊き出しの場にたくさんの方が集まり、そこで出会った人とゆっくり話ができるからです。炊き出しがなくなれば、そのような機会もなくなり、サポートを必要としている人が、そのまま路上に放置されることになるでしょう。路上生活者を減らし、貧困にあえぐ人を人間らしい生活に戻すためにも、炊き出しは必要です。

6.その他の活動

①鍼灸指圧マッサージ
 毎回の炊き出しの際に、希望者を対象に無料で鍼灸指圧マッサージを行っています。心と体の疲れをいやして元気を取り戻して欲しいという願いから、専門の鍼灸指圧マッサージ師がボランティアで行っているもので、毎回5~15名程度が利用されています。
②池袋ほっと友の会(お茶会)
毎月第四土曜日の炊き出しの際に行っています。孤独になりがちな路上生活者が、ボランティアスタッフとともにお茶を飲みながら語り合い、心をいやして元気を取り戻して欲しいという考えから、臨床心理士を中心として運営しています。毎回路上生活者が5~10名、ボランティアスタッフはほぼ同数参加しており、リピーターの中には「これがあるから、来月もまた酒を飲み過ぎずに健康でいようと思う」と語ってくださる方もいます。
③法律相談
 年4回、3の倍数月の第4土曜日に、無料で借金・賃金未払いなどの法律相談を行っています。スタッフは「ホームレス総合相談」の弁護士・司法書士などの法律家で、毎回10名程度が利用し、債務整理や賃金の請求等のサポートを受けています。
 
これらの活動も、炊き出しに集まったたくさんの方を対象にしてこそ有効に機能します。

7.体験学習としての炊き出し

 格差と貧困の問題がクローズアップされるにつれて、ホームレス問題を重要な社会問題として捉える方が増えてきました。TENOHASIでは、ホームレス問題の現場を体験したいという方を積極的に受け入れています。
 個人で参加された学生・社会人は昨年度下半期だけでも80名にのぼります。また学校の学習の一環として体験学習をされた方は、今年度になってからでも、大学2校(一橋大学大学院・東京女学館大学)・看護学校1校(板橋中央看護専門学校)の3校から延べ40人以上となっています。高校や中学校のボランティア体験を受け入れることもしばしばあります。体験に来た方は、ともに炊き出しを行い、スタッフや当事者とふれあうことで、社会のあり方を考え、今後の生き方を考える貴重な学習の場になっています。今後は、地元の方や区内の学校に呼びかけて、ボランティア体験学習をもっと受け入れたいと考えています。これも、豊島区に炊き出しの場があってこそです。

8.むすび
 私たちは、たかだか月10万円程度の経費で活動している弱小ボランティア団体です。年間数十億円の資金を集める大きなNPO法人や、ましてや行政機関とは比べものにならない規模です。しかし、豊島区に集まる路上生活者への継続的な支援活動としてはこの活動がほとんど唯一であり、「自立サポートセンターもやい」やこの年末年始に行われた「年越し派遣村」などと連携しあ
いながら、路上生活者の自立支援を続けてきました。そのもっとも中心となる活動が炊き出しです。
 未曾有の不景気によって多くの方が路上生活者・生活困窮者になっています。この状況で、行政がどのようにセーフティーネットを再構築し、誰もが安心して暮らせる社会を再建していけるか、住民は注目していると思います。今、豊島区が、「路上生活者の自立を支援する」のではなく「民間団体の支援活動をやめさせる」と言うメッセージを出すことは「品格と文化を誇れる価値あるまち」にふさわしいとはとうてい思えません。弱き者に優しい、弱者への偏見のない品格のあるまちをつくるために、炊き出しの継続を認めていただきますよう、切にお願いいたします。

文責

特定非営利活動法人TENOHASI 副代表理事・事務局長
東京都杉並区立済美養護学校教諭
清野賢司

この記事を書いた人

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